頂き物小説

おしかけ嫁。

帽子男様 作


 勇者は石床に抜き身の剣を突き立てると、にやりとして告げた。

「しばらくやっかいになるぜ」

 魔王は昏い眼差しを投げてから、素早く呪印を切ると、わずらわしい敵を放逐する冥の術、ブラックホールを誦えようとする。

「ま、待てよ!」

 訳の分からぬ場所へ飛ばされてはたまらないと、緑髪の青年はどこか稚なさの残る顔立ちを引きつらせ、籠手を嵌めた腕を打ち振って制した。

 低い詠唱が止み、彫りの深い、冷たく強張った相貌が、招かれざる客の方を真直ぐ向く。

「番犬どもはどうした」

「ビネガーたちのことか?グランドリオンで軽く撫でてやったら、この城から引越しを決めたみたいだぜ、クワカカっ」

 ガルディアの英雄は、呪いで蛙に変えられていた頃そっくりの笑いを上げると、恐れげもなく祖国の禍の因へと間合いを詰めた。常には人間も魔族も十歩より近くには寄せ付けぬ闇の司に、ほとんどぶつからんばかりに距離を狭めると、右の拳で相手の胸板を敲く。

「という訳で、しばらくは俺だけがお前の騎士だ」

「死に急ぎたいようだな」

「ほら、それ。そいつを変えに来たのさ、俺は」

 ジャキが眉間に皺を寄せてにらむと、グレンは微笑みながら左の掌を腰に当て、軽く首を傾げて上目遣いをした。

「もしジール王国で見かけたあの子供が、お前のかつての姿なら...」

「黙れ」

「...戻れるはずだ、お前は。俺はそうやって魔王を倒すつもりだ。剣じゃなくて、心でな。きっとサイラスも分かってくれる」

「黙れと言ったぞ」

 手袋で覆った長い指が伸びて、水鳥のような首にかかる。幾多の怪物を打ち倒してきた救世の騎士にしては細く、もろげな頚の骨。腕力に秀でているとはいえないジール王国の世継ぎにも、たやすくへし折れそうだ。だが双眸に点る光は剛く、容易に消すのは叶わぬようだった。

「はは...もやしみたいなくせに、俺を素手でどうにかできると思ってるのか?」

「つくづくもの覚えが悪い男だ...」

 魔王の青褪めた面差しが歪み、酷薄極まりない笑みを浮かべる。破壊と殺戮の衝動を解き放つと決めた際の、凶々しい様相。さしもの勇者も背筋に戦慄が走るのを覚え、かすかに肩を震わせながら、しかし仄かに頬を上気させて、挑むように見返す。

「諦めが悪いのは、性分でな」

「では己の愚かさを悔いろ。サンダー!!」

 蜘蛛の脚の如く蠢く五本の指から稲妻が迸って、捕えた獲物からつんざくような悲鳴と、激しい痙攣を引きずり出した。

 掴んでいた手が外れると、痩躯はかすかに煙を上げながら石床へと頽おれる。神経を駆け抜けた雷撃の影響で、なおも陸に上がった魚の如くにのたうつ体の真中を、尖った靴の先が幾度か蹴って静かにさせた。

 丈高い影は満足げに頷くと、長い腕を虚無へと差し込み、一本の鎌を取り出す。銘を絶望という、正しく主に相応しい武器。

 疾風の唸りとともに、曲がった刃が振り下ろされる。一度、二度、三度、四度。皮鎧が引き裂かれ、胴着の布が千切れ、血を滲ませた赤白まだらの花弁となって舞い上がる。五度、六度、七度、八度。グレンは衣服のほとんどを失い、裸の胸といわず腹といわず、百もの赤い筋をつけられて、ぐったりと仰向けになったまま動かなくなった。

 ジャキは唇の端を釣り上げると、得物の切先についた血を、生贄の苔色の髪で拭ってから、再び無明の彼方へ仕舞う。次いで空いた手を掲げると、どこからともなく並々と黒い液を満たした水差しが宙を滑ってきた。

「魔族が好む酒だ。処女から絞った血を腐らせて作る。特別に振る舞ってやろう」

 手袋で覆った指がゆっくりと傾くと、水差しの口が下がって、生々しい傷へと中味を注ぐ。

「ぐぁああああああ!!!」

「楽しむがいい」

 闇の司は踵を返すと、玉座へと登り、ゆっくり腰を降ろした。肘掛に頬杖を突きながら、ぼろきれのようになった姿態が痛みにもがくさまをのんびりと観察する。

 だが騎士はやがて、華奢な外見から想像も付かぬ強靱さで立ち上がると、高みから見下ろす敵のもとへよろめきつつ進んでいった。ふらふらと揺れる手が、偶さか床に突き立った聖剣の柄に触れる。

 勇者が凍りつくと、魔王は高らかに嗤った。

「どうした?取れ。いつものようにかかってこい。ドリストーンの玩具を持った貴様となら、遊んでも退屈はせずに済む」

「...い...言っただろ...剣...でなく...心...で...倒すって...な...」

 緑髪の青年は嘯くと、徒手のまま歩みを早めた。御座所へと続く階段のきはざし一つ一つを必死に踏みしめながら、尖った顎を上げ、待ち構える男を凝視する。喘ぎのあいまにも、軋んだ台詞が混じる。

「だ...けど...やっぱ...一発だけ...殴らせ...ろ!!」

 固めた拳が、巌の如き容貌へ飛んだ。だが手袋を嵌めた掌があっさりと不意打ちを受け止めると、しっかり握り締めて、抑え込んでしまう。

「くっ...」

 唇を咬むグレンに、ジャキは目を細めて告げた。

「どうした?終わりか」

「...あの...さけ...おかし...な...」

「頭のめぐりは、酒のめぐりほど早くないようだな」

 魔王は左腕で勇者の腰を抱き寄せると、涙の溜った睫の端を舐めて、やおら唇を奪った。右の手で細いおとがいを抑えて口を開かせると、舌を潜り込ませ、もう一つの舌に絡ませる。蛇のように執拗に貪ってから、双方の唾液の混ざりものを飲ませると、やっと解放した。

「はぁ...はぁ...」

「ただ抱かれに来たのなら、もったいをつけるな」

「お前っ!...あぐっ!!」

 抗いの言葉は半ばで途切れる。尻に回った手が、ずたずたになった洋袴の裏に滑り入り、臀肉を握り締めたのだ。苦痛と恥辱に震える青年の耳元に、青褪めた男は尚も乾いたからかいを吹き込む。

「情けが欲しいのだろう。カエル」

 馴染みの仇名だというのに、耐え難い侮辱に響いた。グレンは歯噛みしながら、しかし我知らず情婦のように相手の首へ腕を回していた。決斗を挑んで敗れるたび、教え込まれた快楽。習い覚えさせられた愛妾としての仕草。ガルディアの英雄としての矜持も、ただ一句の冷たい嘲りの前に崩れ落ちる。それでも口だけは、まだ初志を貫こうと言葉を形作っていた。

「俺...は...本気で...お前を...」

「膝に乗って脚を開け」

 舌が痺れたようになり、もう台詞を続けられなくなり、命じられるがままにまたがると、引き締まった肢を左右に広げる。ジャキはむしるように服の残りを剥ぐと、剥き出しになった菊座をぞんざいに弄った。

「うぐっ...」

 具合さえ確かめれば用は済んだとばかりに指を抜くと、前をくつろげ、剛直を露にする。そのまま伴侶の腰を引き降ろして、肛孔を貫き、深々と根元まで埋めた。あまりに乱暴なやり方に、緑髪の青年はほとんど呼吸すらできず、弱々しく打ち震える。

「跳ねろカエル。いつものようにな」

「ぁ...ぁっ...」

 直腸が限界まで広がる圧迫感に、声さえ出せないというのに、腰は云われた通り上下を始めていた。恋人でも友でもない男の肩にしがみつき、尻に円を描かせて、精一杯喜ばせようと努める。一体何をしているのだろう。沸き起こる疑問は脇へ押しやって、ただ寒けのするような官能に身を委ねる。

 また口付け。魔王はいつのまにか手袋を取り去って、素手で浅黄の髪を梳り、裸の背をさすっていた。あれだけ嬲ったあとの、打って変わったような優しい愛撫。頭の芯が蕩けるのを覚えて、勇者は涙をこぼしながらも、腰を左右に捻り、後孔を締め付けて、娼妓顔負けの技巧を発揮する。

「...っ...」

 彫像のような容貌が、初めて平静を失い、快楽の印を示す。グレンは胸をときめかせながらいっそう懸命に跳ねた。するとすぐジャキの平手が飛んで、尻朶を叩く。

「あぐっ!!」

 図に乗るな。という意味だろうか。打擲は双臀が均等に臙脂に染まるまで続いた。

「ふぁ...ぐっ...ぅ...」

「止まるな」

「ぁ...ぅ...」

 青年は泣きじゃくりながらまた下半身を揺すって、体内に納めた凶器に直腸を削らせる。脊髄を昇っていく痛みにも似た疼きに、触れもしていない秘具がひくつき、絶頂の徴を零す。腹を白濁で汚しながらも、休むのは許されず、さらに男の膝で踊るしかない。

「...も...もぉ...」

「心で倒すだと?」

 魔王のせせら笑いに、勇者は耳まで鬼灯の色に染めながら、長い長い淫舞を続けた。

 

 夜更け。闇の司は玉座に在って、盃から血の酒を啜っていた。魔族が人間に敗北した今ではもはや新たに作るのも叶わぬ品。さほど美味とも思えぬそれを、ちびちびと舐めていく。脚のあいだには騎士が白い裸身を晒してうずくまり、陰茎を咥えて懸命に頭を上下させていた。育ちの良さを感じさせる、きちんと膝をそろえた格好で、素早く舌を動かし、喉の粘膜まで使って奉仕する。

 やがて魔王は低い呻きとともに精を放つと、逃れられぬよう若草の髪を抑えつけて、すべてを口腔に注ぎ込んでから、左右から頬を挟んで上向かせた。

 勇者はあどけなさの残る容貌をさらし、唇を開いて、舌に溜めた子種を露にすると、主の許しを待ってから嚥下する。そこまでは従順な奴隷の如くに振る舞ってから、急に荒っぽく手の甲で口元を拭うと、ニ、三度えずいてから、軽い調子で喋り出した。

「そんなおかしな酒飲むのはよせよ」

「...」

「クロノの時代の旨い酒でも飲みに行こう。お前シルバードなしでも時を越えられるんだろ?」

「...カエル」

「な...何だよ...」

「口をすすいでこい」

「っ...ったく...」

 グレンは一糸まとわぬ姿でふらりと立ち上がると、回廊の奥へ駆けていった。遠ざかる尻を見送ってから、ジャキはいきなり盃を宙に放り、ブラックホールの呪文で消し去る。次いで衣服を直すと、再び伴侶の消えた暗がりを眺めやった。

「心で倒すだと?」

 視線を落として、床に刺さったままの抜き身の剣を一瞥する。利刃がからかうように眩い光を放つ。金属の煌めきの向こうに、一瞬、いたずらな童児らの笑顔が覗いたかのように見えた。

 魔王は舌打ちすると、ドリスストーンを触媒に時を越えるための、面倒な呪文を思い出しにかかった。



以上、帽子男様に頂きました! ワーイ!

か か 神キタ - .∵・(゚∀゚)・∵. - ッ!!

ちょ、グレン、計画的犯行すぎる!ww
きっとこのあと、魔王城に、宅急便でグレンの身の回りの荷物が届くにちがいありませんwww
グレン「シシシ......持参金なしで嫁にいけたおwwwww」
こうですね判ります!w

いやあ、魔王様も気立てのよい嫁を貰えてよかったですね! ワアイ! 私も嬉しいです!w


いやいやいや、もう、ありがとうございました!!!!
なんという棚から魔王グレン!
嬉しいお(´;ω;`)ブワッ



しかし......自分がスパンキング好きだとは、ちょっと知ってたけど、再確認したワw